少し前に話題になったこの本。
かなり気になっていたが、そのときはタイミングを逃してしまい、このたびやっと読み終えた。
無料を利用して収益をあげるということについては、それなりの見識をもっていたつもりだったが、
この本のように、その歴史と仕組みを体系的に説明されると、自分の考えていたことは、
まだまだ初歩的なものだったことがよくわかった。
本書は、根本的な考え方から、現在の色々なビジネスモデルについてまで詳しく説明されており、
どの章も興味深い内容が多かった。
気になったところを書き留めておこうと思う。
- 今日、市場に参入するもっとも破壊的な方法は、既存ビジネスモデルの経済的意味を消滅させることだ。つまり、既存ビジネスが収益源としている商品をタダにするのだ。すると、その市場の顧客はいっせいにその新規参入者のところへ押しかけるので、そこで別のものを売りつければいい。携帯電話による無料の遠距離通話サービスを考えてみてほしい。それは固定回線の遠距離電話ビジネスを衰退させた。
- フリーはモノやサービスを最大数の人々に届ける最良の方法だが、それを目標としていないときには逆効果になりかねない。強力な手段はどれもそうだが、フリーも慎重に使わないと、利益以上の損害を与える恐れがあるのだ。
- ハリスの経験から得られる教訓は、デジタル市場ではフリーはほとんどの場合で選択肢として存在するこだ。企業がそうしなくても、誰かが無料にする方法を見つける。
- 複製をつくる限界コストがゼロに近いときに、フリーをじゃまする障壁はほとんどが心理的なものになる。つまり法律を犯すことの恐れ、公平間、自分の時間に対する価値観、お金を払う習慣の有無、無料版を軽視する傾向の有無などだ。
- デジタル世界の製作者のほとんどは、遅かれ早かれフリーと競いあうことになるだろう。ハリスはそれを理解して、どうすればいいかを考えた。彼はみずからの調査によって、違法コピーをする者の心の中を覗き込み、人々がお金を支払うべき理由を求めていることを知ったのだ。
- 製造コストが長期にわたり下がり続けるならば、ほかでは正気の沙汰とは思えないような価格スキームを試すこともできる。今日のコストをもとに価格を決めるのではなく、明日に要するであろうコストから価格を決めるのだ。低い価格設定は需要を刺激し、需要増がコストをさらに下げて、明日が来たときには予想よりもさらにコストは下がっていることになる。それで利益をあげられるのだ。
- アイデアとは究極の潤沢な商品で、伝達のための限界費用はゼロなのだ。アイデアが生まれると、みずから広く遠くへと伝わることを望み、触れたものすべてを潤沢にする(社会でそのように広まる考えを『ミーム』と呼ぶ)。
- 物質からではなく、アイデアからつくられるものが多くなれば、それだけ速くものは安くなっていく。これがデジタル世界のフリーにつながる潤沢さのルーツだが、今日この現象は簡潔に『ムーアの法則』と呼ばれている。
- いつのときも、世界はその時点で生産されているものを少しだけ多く、あるいは少なく望み、需要と供給の増減にともなってすぐに価格も動く。だが長い期間で見ると、生産コストの低下は価格の低下という全体的傾向を保証し、需要と供給の一時的不均衡は、ゼロへと向かう不可避の流れに漣を与えるにすぎない。
- 潤沢な情報は無料になりたがる。稀少な情報は高価になりたがる。
- グーグルはひとにぎりのコアプロダクトの広告料から大金を稼いでいる。そのほとんどは検索結果の表示画面や、提携したウェブサイト上に広告を載せることによるものだ。それでほかのすべてをフリーにできる。新しいサービスはオタクの妄想のような問いかけから生まれる。『これはクールだろうか?』『みんなほしがるかな?』『このやり方は僕らのテクノロジーをうまく使えるだろうか?』。彼らは『これは儲かるか?』という平凡な質問から始めたりはしない。
- Yコンビネーター社は小規模企業専門のベンチャーキャピタルだが、その共同創業者のポールグラハムは、起業を目指す者にいつも単純なアドバイスをするという。『人々がほしがるものをつくりなさい』。
- どうしてグーグルではフリーが当たり前なのだろう。なぜなら、それが最大の市場にリーチして、大量の顧客をつかまえる最良の方法だからだ。シュミットはこれをグーグルの『最大化戦略』と呼び、そのような戦略が情報市場の特徴になるだろうと考えている。その戦略はとても単純だ。『何をするにしても、分配が最大になるようにするのです。言い換えると、分配の限界費用はゼロなので、どこでもものを配れるということです。』
- フリーはあらゆる市場でいつでも消費者をひきつけるが、その周辺でお金を稼ぐには、特にユーザを100万人単位で抱えているものでなければ(あるいは、抱えているときでさえも)、創造的に考え、試しつづけることが重要になる。
- スポーツクラブの固定費は施設設備費と人件費だ。会員が利用しないほうがクラブは儲かる。ほとんど利用しない会員が多ければ、クラブはより多くの会員を集められるからだ。同様にネットフリックス(定額制のネットDVDレンタルサービス)はDVDの返却が遅ければ遅いほど儲けが増える。違うのは、スポーツクラブの会員は利用しないことで、サボってしまったといやな気分になるが、ネットフリックスの会員はDVDを数週間借りっぱなしでも、延滞料金が発生しないので、いい気分のままでいられる点だ。
- 今や<欲求段階説>としてよく知られているマズローの答えはこうだ。『すぐに別(高次)の欲求が現れ、生理的空腹に代わってその肉体を支配する』。マズローの五つの段階の一番下には、食べ物や水などの生理的欲求がある。その上は安全の欲求で、三段目は愛と所属の欲求、四段目が承認の欲求で、最上段が自己実現の欲求である。自己実現とは、創造性などの意義あるものを追求することだ。
- 私たちは食べていかなければならないが、マズローの言うとおりで、生きるとはそれだけではない。創造的かつ評価される方法で貢献する機会は、マズローがすべての願望の中で最上位に置いた自己実現にほかならず、それが仕事でかなえられることは少ない。ウェブの急成長は、疑いなく無償労働によってもたらされた。人々は創造的になり、何かに貢献をし、影響力を持ち、何かの達人であると認められ、そのことで幸せを感じる。
- 私たちは、稀少なものに対する思考は得意だが、それは20世紀に体系化されたモデルだ。今度は、潤沢なものについてもうまく考えられるようにならなければならない。
- フリーと競争するには、潤沢なものを素通りしてその近くで稀少なものを見つけることだ。ソフトウェアが無料なら、サポートを売る。電話が無料なら、遠くの労働力と能力をその無料電話を使って届ける(インドへのアウトソーシングがこのモデルだ)
- もしも自分のスキルがソフトウェアにとって変わられたことでコモディティ化したならば(旅行代理店、株式仲介人、不動産がその例だ)、まだコモディティ化されていない上流にのぼって行って、人間が直接かかわる必要のある、より複雑な問題解決に挑めばいい。そうすればフリーと競争できるようになるだけではない。そうした個別の解決策を必要とする人は、より高い料金を喜んで支払うはずだ。
◆クリス・アンダーソン
『ワイアード』誌編集長。「ロングテール」という言葉を2004年に同誌上ではじめて世に知らしめ、2006年に刊行した同名の著書『ロングテール─「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(早川書房)は世界的ベストセラーとなる。ジョージ・ワシントン大学で物理学の学位を取得、量子力学と科学ジャーナリズムをカリフォルニア大学バークレー校で学ぶ。ロス・アラモス研究所の調査員を務めたあと、世界的科学雑誌である『ネイチャー』誌と『サイエンス』誌に6年間勤務
2 件のコメント:
タダの部分とそうでない部分の選択というかバランスというか。
取れるところから取るみたいな。
納得して払ってくれるみたいな。
税金もそうしてくれないかな。
そうね。
『しょうがなく払う』、『払わざるをえない』、みたいなのはなしにして、払う人が『これなら払っても良い』、『これくらいなら払ってもいい』くらいの気分にさせることを重要視してるってことのように思う。
あと、『あなたからなら買う』っていうことが究極だと以前におやっさんに教えてもらった。
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